収支相償はなくなった??
2011年11月11日

公益総研 非営利法人総合研究所
首席研究員兼CEO 福島 達也
(公益財団法人公益推進協会 代表理事)

 

多くの公益法人を悩ましているのは、公益法人認定法第5条第6号のいわゆる「収支相償」だろう。

これは、法律では、「公益目的事業収入がその実施に要する費用を超えない」となっているが、簡単に言うと「公益目的事業は、あのうるさい国税庁が法人税を課さないと決めてくれたのだから、絶対に利益を出してはいけませんよ」というものだ。

だから、絶対にもうからないようにしなくてはいけない。

万が一利益が出てしまったらどうなるのか?公益法人の取り消しか?



いや、使えばいいのである。

それもその年でなくてもいい。次の年でも、10年かけてもいいから、その年の利益をなくしてしまえばいいのだ。

だから、やっきになって無駄遣いする公益法人が増えると予想されている。



審査の際には、事業ごとに利益が出ないようにチェックする第一段階と、すべての公益事業をひっくるめてさらに収益事業等収入からのみなし寄付なども含めて利益が出ないようにチェックする第二段階の2回の厳しいチェックがあるのだが、それぞれ1円でも利益を出さないようにするのではなく、それぞれの剰余分をどうするのかを約束させるのである。



つまり、第一段階において収入が費用を上回る場合には、その額をその事業の発展や受益者の範囲の拡充に充てられるべきという考えのもと、その事業に係る特定費用準備資金として計画的に積み立てれば、利益が出てもいいことになっている。つまり、収支相償の基準を満たすのである。



具体的には、剰余金が生じた理由及びその剰余金を短期的に解消する具体的な計画について詳細に説明しなければならず、「何となく使います」では認められない。

ここはものすごく審査が厳しい。

ただ、この場合の短期的とは原則として翌事業年度のことだが、そのもっと先の事業年度までかけて解消せざるを得ない場合には、その計画を合理的に説明できれば収支相償の基準はクリアできる。

そして、第二段階においても、収入が費用を上回る場合には、その額は公益活動全体の拡大・発展に充てることになるのだが、こちらも公益目的事業に係る特定費用準備資金として計画的に積み立てればクリアできる。



さらに、事業で使う方法以外もある。

それが資産購入だ。

つまり、公益目的保有財産となるような建物や機械や自動車など、実物資産の取得やリフォームや修理代などの改良に充てるための資金に使ってもいいのだ。

もちろん、その年に使わなくても、そのための積み立てを行ってもよい。

こういうものを「資産取得資金」という。いわゆる公益資産積立金である。

このように、当期の公益目的保有財産の取得に充てたり、このような状況にない場合には、翌年度に事業の拡大等により同額程度の損失となるようにすれば収支相償の基準はクリアできる。

このことは、かなり公益法人に浸透してきているのだが、やっぱり気になるのは「使い切らなくてはいけないのか」ということ。

剰余金を何年かけても使い切らなくてはいけないということは、公益法人になってから、公益目的事業だけやっているような法人は、永久にお金が増えていかないのだ。

つまり、減る年は何も補てんしてくれないので、何十年何百年もたてば、どの法人も財産が目減りしていって、いつかつぶれてしまう計算になるのだ。

だから、公益法人には移行したくないという法人がたくさんあり、一般法人への移行がものすごい勢いで増えている。



しかし、ここに「落とし穴」があった。

というよりも「救いの神」があったと言った方が良いだろう。

お金を残してもいい方法があるのだ。



こんなことを言うと「脱税指南」とか「節税指南」とか言われてしまうかもしれないが、公益目的事業の利益は使い切らない方法があるのでぜひ覚えておいて欲しい。

どういうことかというと、第二段階での剰余金のところは、ガイドラインT−5(4)をよく読めば、「公益目的保有財産を取得する場合には収支相償基準は満たされているものとして取り扱われる」と書いてあるのだが、公益目的保有財産というのは、土地や建物や機械などの固定資産以外でも、定期預金や有価証券等の金融資産だっていいはずなのだ。

その証拠に、手引には、公益目的保有財産の例に「定期預金」とか「有価証券」なんてのが書いてある。

だから、金融資産を購入してその運用益を公益目的事業に使用すれば立派な「公益目的保有財産」の誕生である。



ということは、あれだけ恐れていた収支相償の亡霊「絶対に使い切れ」は嘘だったのか?



まあ、嘘ではないが、「利益を使い切らなくてもいい方法が誕生した」と思って欲しい。

残せるのだったら一般法人ではなく公益法人にしたいという公益法人も多いかもしれない。

もしそこだけで一般法人を検討している法人があったら、是非声をかけて欲しい。

弊社の顧客には、公益目的事業の利益を使い切らない方法で、ちゃんと公益法人に移行している法人がたくさんあるから。



さて、ここまで読んだ方の中には、「使い切らなくていいなら公益法人に移行しよう」という人もいるだろうし、「でも、公益目的保有財産なんだから、保有して果実を使うということは、結局そのお金は使えないではないか」という人もいるだろう。

そうそう、確かに利益分を有価証券などの金融資産にして、それを公益目的保有財産と位置付けて、どんどんお金を増やすことができても、そのお金はあくまでも運用して果実を使うだけだから、どんどんどんどん資産は増える一方で、一向に使えないということになる。いやなっていたのだ。



しかし、そこにも朗報がある。



そもそも公益目的保有財産は「継続して公益目的事業の用に供するために保有している財産」であり、原則果実のみを公益目的事業に使用することが前提として内閣府は言い続けてきた。

だから、取り崩しを前提とするものは公益目的保有財産とは認めないとされてきたのだ。

しかし、最近はかなり柔軟になってきて、どんな事態が発生しても絶対に元本取り崩しを認めないということではなく、どうしてもやむを得ない事情がある場合は理事会の決議等により取り崩しを認めるというように、現在の内閣府の見解は変わってきているのだ。

もちろん、こういう手続きはすべて特別の規程などできちんとうたっておかないといけない言うまでもないが、それでも、絶対に使ってはいけないのではなく、使わないのが原則だが、原則には例外があるというのは誠にありがたい。

この手法はかなり慎重にやらないと認められないこともあるので、誰でも簡単に取り崩せるとは思って欲しくないが、「絶対に取り崩せない」ものではないことだけは知っておいて欲しい。



こうやって考えると、「収支相償」っていったい何なんだろうか??



利益を1円でも出してはいけなかったはずが、いつの間にか、それを何かで使うことができるようになり、さらに、残しておく道も開かれるようになり、さらにさらに、残しておいたお金がいつか取り崩せるようになったら、本当にこの基準は「あってないようなもの」ということになるのではないか。



そのあたりがとても心配だが、弊社にはこういう相談が増え続けているのも事実。

まあ、うちはコンサルだから、お客さんに喜んでもらえばいいのだが、法律を策定準備段階から見てきた私としては、実に複雑な心境である。





公益総研株式会社 非営利法人総合研究所

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